熊須碁盤店
木と生きる

Living with Wood – The Story of Time and Hands

木とともに、時を生きる

Living with the Time of Wood

300年の木を、300年先へ。 ─

榧(かや)は、ゆっくりと育つ木です。
200年〜300年、あるいはもっと長い時間をかけて、
雨と風をまといながら少しずつ年輪を重ねます。

その木が碁盤や将棋盤、
そして暮らしの道具として再び人のもとへ渡る。
私たちは、森の時間を“受け継ぐ気持ち”で刃を入れます。

木は、伐られても生きています。
削るたびに香りが立ち、木目が呼吸をはじめます。
その瞬間こそ、職人の心が最も静かになる時間です。

盤を削り直すという営みについては、
碁盤を削り直すということ」にまとめています。

木と人とが、互いに学び合いながら生きる。
熊須碁盤店の仕事は、森の時間を未来へ渡すことです。

榧という木そのものについては、
榧という木 ― 三百年の時を生きた日向榧」で詳しくご紹介しています。

手が語るもの、道具が覚えていること

What hands and tools remember

刃の跡に宿る記憶

鉋(かんな)を滑らせると、指先が木の声を聴き取ります。
わずかな抵抗や柔らかさが、木の個性として伝わってくる。

熊須家では、先代から受け継いだ道具を

今も使っています。

刃物の柄には手の形が馴染み、

鉋台には幾度もの修理跡が残る。
それは、家族三代の仕事の記録でもあります。

太刀盛りの瞬間、職人の呼吸は一拍止まり、
漆を帯びた日本刀の先が、木の上に精緻な線を描いていく。

その一筋の線の中に、百年の経験と

静かな祈りが重なります。

道具が語るのは、技ではなく「心の使い方」です。

日々の道具については、
日々の道具」ページでもご紹介しています。

森の記憶を受け継ぐ

Echoes of the Forest

─ 綾の森が教えてくれること ─

綾町の森は、日本でも珍しい照葉樹林。

榧がゆっくりと育つのは、この土地の岩盤が深く、
清らかな水が長い時間をかけて根を養うからです。

熊須碁盤店にとって、森は“材料”ではなく、静かな師です。
一枚の榧に向き合うとき、木目の流れや香りが刃の動かし方を教えてくれる。

できあがりの姿を思い描きながら、

木の声を聴くように鉋を走らせ、
木の中に眠るかたちを無理なく引き出すように

仕事をしています。

木にはそれぞれ個性があります。
節もあれば、歪みもあり、まっすぐ削れないものもある。

そのすべてを受け入れながら、
木のもつ力をできる限り生かしきることが、
私たちの誇りです。

使う分だけを丁寧に使い、植樹を続けながら、

森との循環を守る。

いつかこの盤が、私たちの寿命を超えて、
次の世代の手の中で静かに時を刻み続けてくれることを

願っています。

森を伐るのではなく、森をつなぐ。
それが、私たちの仕事です。

綾町の森については、
森と綾町」のページにて詳しくお伝えしています。

木の香りを未来へ

Carrying the Scent of Wood into the Future

─ 静けさを育てる ─

碁盤やまな板を手に取った人が、
ふと香りに立ち止まり、心が静まる瞬間があります。

それは、木が育ってきた森の記憶が、
ひととき人の暮らしの中でよみがえる瞬間です。

熊須碁盤店の製品は、ただの道具ではありません。

何百年ものあいだ森で育まれた木と、
その木に向き合う職人の時間、
そして使う人の時間が重なり合う。

その“時間の響き”こそが、私たちのものづくりの原点です。

一枚の木を仕上げるとき、

職人はいつも未来を思い描きます。

その木がどのように盤へと仕立てられていくのかについては、
榧が盤になるまで」でご紹介しています。

どんな人がこの盤に手を添えるのか、
どんな手ざわりが心を落ち着かせるのか。
木の香りや温もりが、誰かの日常に

そっと寄り添うようにと。

そして願うのは、この盤が自分たちの寿命を超えて、
次の世代の手の中で再び息づくこと。

木が持つ時間と、人の時間が静かに響き合いながら、
文化として生き続けることです。

木の香りは、記憶をつなぐ言葉。
今日もまた、ひとつの木が新しい時間を生きはじめます。