The KAYA Tree – The Forest That Breathes Across Centuries

榧という木 ― 三百年の時を生きた日向榧

The Tree That Remembers the Forest

森の中で、長い時を過ごした木

日向地方・宮崎県綾町。
照葉樹林の深い森の奥で、榧(かや)は静かに年輪を重ねてきました。

岩盤質の土地に根を張り、清らかな水を吸い、
ゆっくりと成長する榧の木は、碁盤材として日本一と高く評価されてきました。

「槇は万年、榧限りなし」――。

その言葉の通り、榧は驚くほどの耐久性をもち、
時間を経ても艶と香りを失いません。

伐採から乾燥、仕上げまでにかかる年月はおよそ10年。
一本の木が碁盤として生まれるまでには、
人の一生にも匹敵する時間が流れています。

The Fragrance and Texture of Life

香りと質感 ― 生きている木

碁盤や道具をつくるとき、熊須碁盤店が心がけているのは、
木そのものの香りや質感を、できるだけ損なわないことです。

木に近づくと、ふわりと甘く清らかな香りが漂います。
それは、どこかニッキやシナモンを思わせる香り。

防虫・抗菌の性質をもつこの香気が、
まな板や碁盤を長く守り、使う人に安らぎを与えます。

榧の柾目は細かく、しっとりとした手触り。
包丁や石を置いたときの“吸いつくような感触”は、榧ならではの特長です。

職人からも「男榧」「女榧」と呼ばれるように、
香りや色合いには個体差があり、どれも同じものはひとつとしてありません。
木でありながら呼吸を続け、季節や湿度に応じて微かに表情を変える。

The First Cut – Where the Dialogue Begins

森と職人 ― 木取りの瞬間

榧の命を受け取る最初の工程、それが“木取り”です。
伐採した原木の内部を見極め、どこに割れや節があるのかを読む。
その判断ひとつで、盤の響きや寿命が決まります。

熊須碁盤店では、一本ずつチェーンソーで切り分け、
木目の方向や年輪の詰まりを見ながら、使える部分を慎重に選びます。

─ Listening to the Wood – The Years of Natural Drying ─

木の声を聴く ― 自然乾燥という修行

碁盤や道具をつくるとき、熊須碁盤店が心がけているのは、
木に近伐られた榧はすぐには使えません。
倉庫で5年、長ければ10年。
板を立てかけ、時間にゆだねながらゆっくりと乾かします。

表面には「割れ止め」を塗り、
木が急激に乾いて割れないように呼吸のリズムを整える。

自然乾燥は、木を“待つ”という修行の時間。
焦らず、急がず、木が語りかけるのを聴くことが、職人の仕事です。

The Meaning of KAYA – A Material That Teaches Silence

榧が伝えるもの ― 静けさに向き合う素材

榧は、人の都合ではなく、

森の時間の中で育ってきた木です。

伐るという行為は、

その時間を終わらせることではなく、

次の役割へと引き継ぐこと。

熊須碁盤店の職人たちは、

榧を「材料」として扱うのではなく、

向き合う相手として受け取ります。

木を削りながら、その性質を読み、

仕上げながら、先の時間を想像する。

その積み重ねが、一枚の碁盤に

静かな佇まいを与えます。

榧は、多くを語る木ではありません。

ただ、急がず、乱さず、

使う人の時間に寄り添い続けます。

In Summary

まとめ

木の道具を使うというのは、
“便利さ”ではなく、“心地よさ”を選ぶこと。
手をかけるほどに、道具は手に馴染み、暮らしを豊かにしてくれます。

榧の木が持つ穏やかな香りと、長く使える強さ。
その両方を、これからの日々の中に残していけたらと思います。

木の道具は、今日もあなたの暮らしを静かに支えています。

榧がどのように伐り出され、乾燥を経て材となるのかについては、原木の調達と乾燥の工程でご紹介しています。