
─ Refinishing and Renewal – The Work of Giving Wood a Second Life ─
削り直し・再生 ― 木のいのちをつなぐ仕事
─ When the Wood Breathes Again ─
もう一度、木が息をする
木の表面を削るとき、
その奥に眠っていた香りが、ふたたび息をする。
熊須碁盤店の仕事は、盤やまな板を“つくること”だけではありません。
長い時間を経て戻ってきた木に、もう一度命を吹き込む――
それが「削り直し」という仕事です。
修理でも修復でもなく、再生(さいせい)。
削ることで、木は再び呼吸をはじめます。
それは、森から受け取った命を未来へ手渡す儀式でもあります。

─ The Process of Renewal ─
削り直しの工程
榧削りの音に、木の声を聴く。
碁盤も、将棋盤も、まな板も。
その再生の道は、同じように静かです。
まず、表面の傷や反りを見極め、
職人は鉋の角度をわずかに傾けながら、木の表皮を薄く削ります。
刃が通るたびに、香りが立ちのぼり、
木の中に閉じこめられていた時間が解き放たれていく。
面取り、艶出し、整え――。
その過程で、盤は少しずつ本来の音を取り戻していく。
削り直しとは、木にもう一度呼吸を整えさせる仕事。
それは、眠っていた響きを目覚めさせるような瞬間です。

─ The Philosophy of Renewal ─
木の再生哲学
木を削るたび、時間を巻き戻すように香りが広がる。
木の命は、一度きりではありません。
森で生まれ、道具として使われ、人の手に馴染んだあとも、
削ることで新しい時間を得ることができます。
熊須碁盤店の職人にとって、
削り直しは「過去を消す作業」ではなく「未来を磨く作業」。
木が持つ記憶を尊び、その記憶を次の時間へ送り出すこと。
木のいのちは、削ることで延びていく。
それが、熊須家の工芸の哲学です。

─ Tools That Grow with Time ─
人と道具の関係
10年、20年を経て、再び工房に戻ってくる盤やまな板があります。
表面には、使う人の手跡や包丁の跡、
勝負の緊張や暮らしの温度が静かに刻まれています。
熊須碁盤店では、それらを完全に消してしまうのではなく、
木の中に残った時間の深みを生かすように削り直します。
表面の傷は取り除きながらも、
木が過ごしてきた年月の艶や香りを引き出すように整える。
削り直しとは、形を戻すことではなく、
使われた時間を美しく磨き上げること。
削り直された木の表面には、
使う人と職人の時間が重なって光ります。

─ The Forest’s Cycle of Life ─
森への循環
木を再生させることは、森を守ることでもあります。
削り直しによって道具が長く使えるほど、
新たな伐採を減らすことができる。
熊須家では、綾町と協力のもと、榧の植樹活動にも取り組んでいます。
伐るだけではなく、森へ返す。
そうして、森と工房と人のあいだに循環を生むのです。

─ Carrying the Memory Forward ─
未来へ ― 木の記憶をつなぐ
削るたびに、木は新しい姿を得る。
そのたびに、職人もまた、木に学び、手を磨く。
木も人も、時間とともに変わり続ける。
だからこそ、手を入れ続ける文化がある。
こうした再生の思想は、
日本の碁盤文化の中で育まれてきたものでもあります。

