囲碁(脚付)5.6寸|綾営林署榧・1枚板木裏盤の側面イメージ1

The Craft of Harmony – Creating the Sound of Go Boards

碁盤のこと ― 響きをつくる仕事

The Art You Hear in Silence

音で見る工芸 ― 静けさを刻む手仕事

一手を打ったとき、碁盤はわずかな音で応えます。

その音は、強く主張するものではありません。
けれど、澄んでいて、濁りがなく、空気の中にすっと立ち上がります。

森で育った木が、職人の手を経て盤となり、静けさの中で音を持つ。

鉋の音、漆の匂い、手の温度。

制作の過程で交わされるすべてが、やがて一手の音として現れます。

熊須碁盤店の仕事は、音を加えることではありません。木が持っている性質を読み取り、その響きが自然に立ち上がる形を整えること。

碁盤づくりとは、長い時間を生きてきた木の静けさを、音として受け取れる形にする仕事です。

The KAYA Tree – The Source of Sound

榧と音の関係

碁盤の音は、あとから加えられるものではありません。

使われる木の性質、乾燥の度合い、厚みや形。
そのすべてが重なった結果として、一手の音が立ち上がります。

榧(かや)は、音を受け止めるための素材です。

年輪が緻密で、ほどよい弾力をもつ榧は、碁石の衝撃を吸収しながら、
濁りのない余韻を残します。

硬すぎれば音は跳ね返り、柔らかすぎれば沈みすぎる。
榧は、その中間にあります。

盤の響きは、

木の密度、
乾燥の時間、
脚の構造―

一つひとつの要素が噛み合って生まれるもの。
職人は、どれか一つで音を作ろうとはしません。

木の状態を読み、工程を積み重ねる。
その結果として、盤は一枚ごとに異なる音を持ちます。

木の性質を知り、音が立ち上がる形を整える。
榧は、音を主張しないからこそ、打ち手の一手をまっすぐに受け止める素材です。

The Blade That Draws Sound

太刀盛り ― 線を刻む

「「太刀盛り(たちもり)」は、
碁盤づくりの工程の中でも、もっとも緊張を伴う作業です。

日本刀の刃先に漆を含ませ、盤の表面に一筋の線を引く。
やり直しはできません。

わずかな力の揺れや、刃の角度の違いが、
盤全体の印象を左右します。

職人・熊須健司は言います。

「逃げ場のない作業です。」

線を引くその瞬間、職人は呼吸を整え、
刃先と木の動きだけに意識を集中させます。

太刀盛りを終えた盤は、ここで初めて
「碁盤としての表情」を持ちます。

一本の線が、盤の静けさと緊張を決める。
太刀盛りは、音を支えるための最初の決断です。

太刀盛りの作業風景

The Silent Shape Beneath the Board

脚のかたち ― クチナシの実の意味

碁盤の脚は、
盤を持ち上げるためだけのものではありません。

盤の下に生まれる空間は、
音が広がるための余白です。

脚の形と高さは、
その空間の性質を決めます。

熊須碁盤店の碁盤では、
脚に「クチナシの実」を模した形が用いられています。

その由来は、「勝負に口を出してはいけない」という戒め。

ただし、脚の役割は象徴だけではありません。

四本の脚を一つずつ彫り、厚みや丸みを揃え、
盤の重さを均等に受け止める。

その精度が、盤の安定と音の立ち上がりを支えます。

脚がわずかに違えば、盤の重心が変わり、
音の伸び方も変わる。

沈黙の中にある形が、一手の音を下から支える。
脚は、音を語らない構造です。

The Aesthetics of Sound

音を聴く ― 打音の美学

碁盤の音は、演出されるものではありません。

木の選び方、
乾燥の時間、
線と形の精度。

そのすべてを経たあとに、結果として現れるものです。

熟練の棋士は、碁石を打つ音で盤を選ぶと言います。

高すぎず、低すぎず、
力を込めても濁らない。
一手を打ったあと、
音がすっと消えていく。

それは、盤が余計な反発をせず、
石の動きをまっすぐ受け止めている証です。

榧の盤は、音を主張しません。
ただ、打ち手の力をそのまま返します。

強く打てば、深く響き、
そっと置けば、静かに応える。

盤の音は、
打ち手の癖や迷いまで映し出します。

だからこそ、音を聴くことは、
盤を選ぶためだけの行為ではありません。

一手に向き合うための、静かな判断材料なのです。

碁盤の制作風景ー脚の取り付け

Family Craft – The Sound Carried Forward

家族の仕事 ― 継承される音

熊須碁盤店では、
三代にわたり榧の碁盤づくりを続けてきました。

時代や道具は変わっても、
木と向き合う姿勢は変わっていません。

それぞれの世代が、
その時代に合った形で仕事を受け継いでいます。

From Forest to Board – The Future of Sound

森から碁盤へ

ここまで、
碁盤づくりの工程や音についてお伝えしてきました。

それらはすべて、
一手に向き合うための下準備でもあります。

碁盤について、
もう少し全体を知りたくなったら、
「碁盤と将棋盤のこと」ページをご覧ください

熊須碁盤店で取り扱っている
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